さて作者は那須田淳さん。自分の短い読書経験の中でも、「ちいさなちいさな王様」「エスターハージー王子の冒険」「魔笛」などを読んだことがありますが、それはどれも訳書。那須田さんが書かれた物語を読むのは初めてのことです。那須田さんは現在ベルリン在住だそうで、なるほどドイツ文学の訳書も多い。この話には、那須田さんが見たドイツ、那須田さんが感じたドイツの全てとは言わないまでも一部が描かれているのだと思います。詳しいことは後述しますが。
たった一枚しかない装画はミヒャエル・ゾーヴァ(Michael Sowa)によるもの。これまた「ちいさなちいさな王様」と「魔笛」で、那須田さんと共に出会った方です。自分は絵の方はからきしなのでゾーヴァのどこがいいだとかそんなことは言えませんが、今回の絵については「一匹オオカミ」だなと感じました。
あとは細かいことかもしれませんが、装幀は杉浦範茂さん。この方は「ルドルフとイッパイアッテナ」の挿絵でお見かけしたことがあり、YAに関しては、やはり自分の年齢上めぐり合わせのあるものなのかもしれません。
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あれ、あれ。まだ内容に突入してもいないのにこんなに時間がすぎてしまった。なので一度投稿して、また今度続きを書くことにします。
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さて続き。昨日書いた文章をそのまま残すのは、自分自身が「現時点での作品を読んだ感想の記録」をしたいからなので、文章は誤字脱字などがない限り、一度投稿したものは直さないことにしてます。とくに、カンショウ記録においては。
作者さんや読んだ時期などについては昨日書いたとおり。そして内容ですが、どうやら内容の方が前述よりもかなり短くなってしまいそうな気がしますが。
第一印象として、ドイツや海外の文化について事細かに書いているな、ということ。ちょっと「ぼく」から見た説明とは思えない表現もあれど、事細かに書いているのはこの本の対象となる世代には説明があった方がいいからなのでしょう。同時に、作者さんのドイツをもっと知って欲しいというような思いもあるだろうな。
ところで気になる表現が、一行空けで太字にするという、文章内容よりも印刷面での部分。印刷面での部分は他にも気になる部分が見られて、明らかにこれは間違いだ、と思う人物名のとりちがいとか。そういった部分が、物語を読んでいると気になって、流れの中から目覚めてしまいました。個人的に印刷面での加工や失敗は気がそがれるなあ。
ドイツ、まずはこの言葉だけで物語のほとんどのベースが完成するように思えるほど、文章の中にドイツに関する描写が多く出てきます。個人的にはドレスデンに行きたいです。なかなか有名な人物が多いので。いいなあ。
次に多いと感じたのはベルリン及びベルリンの壁や、戦争について。まだまだ自分が学んだ部分は少ないので、詳しいことは知りません。主人公リオやアキラと一緒に、そんな壁があったなんて思えない、くらいに感じます。しかし、ドイツと戦争というキーワード2つで、一気に要素が広がり、登場人物たちを人間らしいものにしています。
壁がある世界で育ったマックスやヨアヒム・ノイマン。自由が当たり前の世界に生まれたリオやアキラ。そしてそこに、小さなオオカミが加わる。
章タイトルの「小さなオオカミたち」や「五月の木」の中の強調文の「ぼくらはオオカミなのだ」という部分。物語の後半になってリオもアキラもそのことに気がつくのですが、その場合のオオカミが示す言葉は集団としてのオオカミのことで、よくイメージしがちな一匹狼のものとは異なる。一見、独りの話だったものが、小さなオオカミを通じて数人のまとまった話としてつながる。オオカミの事実、実際のことを浮き彫りにしていくのと同時に、それぞれの内にある思いに気付いていくのは、成長しているのだ、と感じた。「それぞれの夜、それぞれの朝」でノイマン博士が、マックスについて、彼の立場について考えるところなどのオオカミの表現もよかったです。
国も生まれも違うし、そんなに知り合いと言える仲でもなかった登場人物たち。前半、瓦礫女とベルリンの壁の話をしてアキラが「国境ってなんだろうね」と言い、最後にリオがオオカミに国境はない、と述べます。だから、人も同じようにして、人と人とのいい関わりには、国境なんかないのだと思いたくなります。
主題と呼ばれるものについて語るのは苦手なので、なんかもう前置きより短いですが、細かいところを。
章タイトルと内容が適切で、ひとつひとつをじっくり読むことができました。切れ方も劇の暗転のようでスムーズ。時々視点が揺れることが気になったのですが、マックスとリオとアキラと子オオカミの旅は微笑ましいものでした。もう一度一通り読んで、いいなと思ったところに線を引きたい…でも、図書館からの借り物な上、時間もないのでそれは難しいなあ。
一応、個人的に目に留まった表現メモ。
「おれの背中に、昔の亡霊を見たのだろうさ」…ガシュテーテで食事をとった時、そこのおばさんが何かにおびえたような、ばつの悪そうな顔になったのでリオがマックスにたずねた返答。この辺りは歴史がかかわってくるのでしょうか、自分もリオと同じく「亡霊?」という反応しかできません。
『フランチェスカが、ワインは二杯ときめているといっていたが、きょうはその規則を破ったようだ』…マックスとの旅の中盤。夜、昔の家でマックスの昔話をする時に。別に不思議でもなんでもない行動ですが、なぜか、と問われたら答えられない。現代文の問題じみてるかな。
『メールの送り主を見て、一郎は突然、大声をあげた』…物語後半部。リオのパパン。わりと放任主義で、自分がいいからたぶんまわりもよかろう的なお人。それでも、思わず大声をあげたということは、本当に心配していたようで。
あ、これは表現ではありませんがドレスデンのツウィンガー宮殿のアルテマイスターに行ったときにペーターが野生に目覚めたときに現れた老人が何者か、もしくは何の象徴か、残した言葉の意味は。などがわからないので気になる。
他にも面白い部分は多々あった。小林守先生が出てくるところの会話が面白くって笑いながら読んでました。
自由と、子どもの時間を大切に。
子どもの時間、とても早かったなあ。まだ完全には終わっていないけれど。
なにか思い出に残るような冒険を自分もしたいなあ。
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